大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(ネ)1050号 判決

控訴人 篠原東第一自治会

右代表者会長 安井ヤウ子

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 本橋政雄

同 落合正令

被控訴人 篠原東町会

右代表者会長 阿部春男

右訴訟代理人弁護士 久保田康史

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  被控訴人は、控訴人らに対し、二一万三六八五円及び内金九万九八一八円に対する昭和六三年九月二日から、内金一一万三八六七円に対する平成元年四月七日から、それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人らのその余の当審における新請求を棄却する。

三  控訴費用はこれを一〇分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。原判決別紙目録記載(一)、(二)の財産は、控訴人ら及び被控訴人の各四分の一の持分による共有であることを確認する。被控訴人は、控訴人ら各自に対し、同目録記載(一)、(二)の財産の中から、それぞれ四九万九七七六円及びこれに対する昭和五四年一一月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人は、控訴人らに対し、五六万二九四七円及び内金二三万八四七〇円に対しては昭和五七年一二月五日から、内金三二万四四七七円に対しては平成元年四月七日から、各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え(当審における新請求である。)。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。被控訴人の当審における新請求を棄却する。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決中の「旧町内会」をすべて「旧町会」と改める。

2  原判決三枚目表四行目の「篠原東」の前に「横浜市港北区」を、同行の「篠原町」の前に「同区」をそれぞれ加え、同裏六行目の「人間」を「者」と、同四枚目表一〇行目の「横浜市民相談室」を「横浜市市民相談室」と、同裏一行目の「できない」を「ない」とそれぞれ改め、三行目の「篠原東」の前に「同区」を加える。

3  同四枚目裏六行目の「新自治会の結成と変遷」を「新自治会が横浜市に届け出た所属世帯数と変遷と新自治会結成の経緯」と、七行目の「昭和五三年八月」を「同月」と、末行の「同年一〇月」を「同月」と、同五枚目表四行目の「昭和五四年」を「同年」と、七行目の「甲一五号証」を「本訴の甲第一五号証」とそれぞれ改め、一〇行目の冒頭に「(10)」を加える。

4  同六枚目表七行目の次に行を改め次のとおり加える。

「4(一)(1) 被控訴人は、従来旧町会を組織する地域に二二七基の防犯灯(街灯)を設置し、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)との間に電気供給契約を結んでその電気料金を支払ってきたが、昭和五六年四月分から昭和五七年一一月分(同月一五日までの分)までの右料金の支払を遅滞し、その滞納料金額は九五万三八八二円に達した。

(2) 東京電力は、当時被控訴人に対してたびたび右滞納料金の支払を請求し、その支払いがない場合は電気の供給を停止すると警告するに至ったので、控訴人らは同年一二月四日東京電力に対し、被控訴人に代わって右滞納料金を全額弁済した。

(3) 右滞納料金についての各町内会間での内部的分担割合は、町内会の組織的力関係が均衡する限り、各町内会均等と解すべきであるから、控訴人らは右代位弁済に基づき被控訴人に対し、弁済金額の四分の一に当たる二三万八四七〇円を請求しうる。

(二)(1) 控訴人らは、同年一一月一六日以降は右防犯灯の電気料金を控訴人らにおいて負担することとし、東京電力に対し、同日から同年一二月一日までの分二万二六七九円、同月二日から昭和五八年三月分まで一五万五五一五円、同年四月分から同年一一月分まで三六万二七五二円、同年一二月分から昭和五九年三月分まで一九万四一三九円の合計七三万五〇八五円を支払った。

(2) 控訴人らは、昭和五三年旧町会が分裂した後被控訴人が右防犯灯の維持管理を行わなくなったので、修理等の維持管理を控訴人らにおいて行い、修理業者の菊地電器に対し修理代金として、昭和五五年度一一万一九二〇円、昭和五六年度一七万五六六六円、昭和五七年度一九万〇五〇〇円、昭和五八年度八万四七四〇円の合計五六万二八二六円を支払った。

(3) 被控訴人は、控訴人らと共に右防犯灯の電気料金支払及び維持管理業務を分担すべきところ、控訴人らは被控訴人が分担すべき右防犯灯に関する義務を被控訴人のため代行し、その結果(1)及び(2)のうち被控訴人が分担すべき分を立て替えて支出した。したがって、控訴人らは、被控訴人に対し、事務管理費用又は不当利得金の返還請求権に基づき、右(1)及び(2)の支払金額の四分の一に当たる三二万四四七七円を請求しうる。」

5  同六枚目表八行目の「4」を削り、同行の「原告らは、」の次に「被控訴人との間で、」を加え、九行目の「被告に対し、右持分権の確認を求めるとともに」を「右持分の存在の確認を求めるとともに、被控訴人に対し」と、同裏一行目の「同年一一月」を「同月」と、二行目の「求める。」を次のとおりそれぞれ改める。

「求め、かつ、代位弁済による償還請求権に基づき、二三万八四二〇円及びこれに対する代位弁済した日の翌日である昭和五七年一二月五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、事務管理費用又は不当利得金の返還請求権に基づき、三二万四四七七円及びこれに対する平成元年四月六日付控訴の趣旨の変更申立書送達の日の翌日である平成元年四月七日から支払済みに至るまで前同様の遅延損害金の支払を求める。」

6  同六枚目裏三行目から六行目までを削り、七行目の「三」を「二」と、八行目の「1」を「1の事実」と、九行目の冒頭の「2」を「2(一)」と、同行の「2(一)」を「2(一)のうち、阿部会長が昭和四三年以来旧町会の代表者会長に就任していたことを認め、その余の事実」と、一〇行目の「3」を「(二)」と、末行の「点」を「事実」と、同七枚目表二行目の「4」を「(三)」と、同行の「2(三)」を「2(三)の事実」と、三行目の「5」を「(四)」と、同行の「2(四)」を「2(四)の事実」と、四行目の「6」を「(五)」と、五行目の「7」を「3」と、六行目の「点」を「事実」とそれぞれ改め、七行目から一〇行目までを削る。

7  同七枚目表一〇行目の次に次のとおり加える。

「4(一) 同4(一)(1)のうち、被控訴人が従来旧町会を組織する地域に二一一基の防犯灯を設置し、東京電力との間に電気供給契約を結んでその電気料金を支払ってきたことは認め、その余の事実は否認し、同(2)の事実は知らず、同(3)の主張は争う。

(二) 同四(二)(1)のうち、控訴人らが東京電力に対し昭和五七年一一月一六日以降の右防犯灯の電気料金を支払ったことは認めるが、その具体的内容は知らず、同(2)のうち、被控訴人が昭和五三年以降右防犯灯の維持管理を行わなくなったことは否認し、その余の事実は知らず、同(3)の主張は争う。被控訴人は、昭和五五年四月以降も昭和五九年三月まで右防犯灯の修繕費を払い続けている。そして、控訴人らは昭和五六年四月一六日東京電力に対し、同日以降右防犯灯の電気料金を控訴人らで支払う旨約し、電気の供給を継続するよう求め、昭和五七年一二月以降は東京電力との間に正式の電気供給契約を締結して電気の供給を受けるに至ったのであるから、昭和五六年四月一六日以降の右防犯灯の電気料金の支払及び維持管理は控訴人らの固有の事務として行われたものである。又控訴人らの支出した同(1)及び(2)の電気料金及び修理代金は、控訴人らが港北区から配付された地域振興協力費を原資として支払われたものであるから、控訴人らには民法七〇三条にいう損失は存在しない。なお、控訴人らは、控訴人らと被控訴人との分担について各町会に均分されると主張するが、電気料金等の主たる財源である地域振興協力費は各町会の世帯数に応じて配分されるのであり、又防犯灯の点灯による便益も各世帯において享受するのであるから、控訴人らの右主張はその根拠を欠く。

三  抗弁

1  被控訴人は、昭和五一年ころ長寿憩の家の建設を目的として被控訴人、篠原東長寿会、篠原生活協同組合の三団体で結成された長寿憩の家建設委員会に他の団体と共に資金を拠出したが、その後事情の変化から長寿憩の家の建設は中止せざるを得なくなって、同委員会の積立資金はこれを拠出した団体に返還されることになり、昭和五三年一一月二日の同委員会で被控訴人に対しては一二一万七六九九円返還されることが決定した。被控訴人は右返還に係る金員を一般会計に繰り入れ、その活動費に支出した。したがって、本件(一)の財産は消滅している。

2  本件(二)の財産は、正確には昭和五三年八月ころ港北区より被控訴人に配付された地域振興協力費五二万六四〇〇円であるが、右金員は被控訴人の昭和五三年度の収入に計上され、被控訴人の事業費(防犯灯管理費を含む。)等に支出された。したがって、本件(二)の財産は消滅している。

3  被控訴人は、昭和五六年四月九日付で東京電力に対し、東京電力電気供給規程四七条一項に基づき、同月一六日から前記防犯灯につき電気の使用を廃止する旨通知した。したがって、同日をもって東京電力との右防犯灯の電気供給契約は消滅したものであり、被控訴人は請求原因4(一)の電気料金につき支払義務を負わない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1及び2の事実は否認する。

2  抗弁3については、被控訴人がその主張のとおり通知をしたことは認めるが、その余は争う。町内の防犯灯をすべて消灯するような右申入れは、公序良俗違反であって許されない。」

三  《証拠関係省略》

理由

一  まず、本件(一)・(二)の財産についての共有であることの確認及びその支払請求について検討する。

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  旧町会は、昭和五三年当時約一三三〇世帯が加入しており、会則を定め、これに基づいて運営され、旧町会の意思決定機関として総会、執行機関として役員がおかれ、会員から一定額の会費を徴収し、主として会費及び港北区から配付される補助金を町会の経費に当て、防犯灯の電気の供給等の外部との取引関係については町会が主体となり、会員の加入、脱退に関わりなく、町内会としての独立の存在を維持している。

(二)  旧町会の代表者会長には昭和四三年以来継続して阿部会長が就任していたが(この点は当事者間に争いがない。)、阿部会長の町会運営については、利己的であって会計が不明朗であるとの噂が存在し、少なからぬ会員らが不満をもっていた。そして阿部会長及びその側近の会員らの発言力が強いので、役員会や総会、月例協議会において阿部会長の町会運営を批判する意見は殆ど出なかった。

(三)  阿部会長の町会運営に不満をもつ会員らは、横浜市市民相談室において複数の世帯が参加すれば新自治会の結成が可能である旨の教示を受けたこともあって、旧町会内部で阿部会長の責任追及の手段を講ずるよりも新しく自治会を結成しようとの結論に達してその運動を開始した。昭和五三年八月三〇日篠原東第一自治会(会長安井ヤウ子)、同年九月六日篠原東第三自治会(会長峯岸宇助)。同月一二日篠原東第二自治会(会長小杉孝一)が結成され、とりあえず横浜市に対してその旨の届出がされた。新自治会会員は、同年一〇月分以降の旧町会費の納入をやめ、新自治会に同月分以降の会費を納入するようになり、同年一一月九日には一五二名の出席を得て合同の設立総会を開催し、昭和五四年三月ころまでには正規の会則が決定され役員が選出された。その間に、新自治会会員は旧町会を脱会することとし、その手続を各自の所属する新自治会の会長及び青木秀樹(現控訴人篠原第二自治会代表者)に委ね、同人らは、四名連名で新自治会会員となった篠原東一丁目地域の二五八世帯、同二丁目地域の二二一世帯、同三丁目地域の四〇〇世帯の者が旧町会から脱会した旨を記載した昭和五三年一〇月二日付通達書をそのころ旧町会宛郵送した。これに対し旧町会は、右書面では右峯岸、小杉、青木(安井はもともと非会員であるとして)以外は脱会者が不明であるから、右三名を除き新自治会会員の脱会の効力は生じていないと争い、これに対し控訴人らは被控訴人を被告として本訴を提起したが、控訴人らは昭和五四年六月七日の原審第三回口頭弁論期日において、同年四月現在の控訴人らの会員名簿(それによれば、会員数は、篠原東第一自治会が二六六世帯、篠原東第二自治会が二三九世帯、篠原東第三自治会が四六三世帯である。)を証拠として提出して被控訴代理人にもこれを交付し、被控訴人側としても、この時点において会費の支払状況や右会員名簿の記載から脱会者を正確に把握しうるに至った。

(四)  その間、旧町会は、右のような動きに対抗してその組織を強化するため、昭和五三年九月九日臨時総会を開催し、従前から存在した七支部を格上げして独立の町会とした上、旧町会をその上部団体とする連合組織とし、名称も篠原東連合町会と改めることでいったんは決定したが、かえって組織に混乱が生ずるとの意見が多く、殆ど実効を見ないまま間もなく従前の組織に復した。しかし、同年以降会員数が減少し、横浜市の推計では昭和五八年には会員数一三〇世帯程度となり、財政的にも町会の維持が困難となったため、被控訴人は昭和五九年四月一二日清算事務を残して解散した。

(五)  長寿憩の家建設資金は、旧町会に特別会計として昭和五二年度(同年三月一日から昭和五三年二月末日まで)末現在で一四七万四二七五円積み立てられていたが、昭和五三年一一月二日開催された長寿憩の家建設委員会で建設計画の中止が決定され、同建設資金は出資三団体の承認のもとにそれらの各団体に返還されることとなり、同年一二月一六日、当時の全額が篠原東長寿会へ一六万二〇一九円、旧町会へ一二一万七六九九円、篠原生活協同組合へ一〇万一三八九円それぞれ返還され、旧町会は右返還金を昭和五三年度(同年三月一日から昭和五四年二月末日まで)の一般会計の歳入に繰り入れた。また昭和五三年度地域振興協力費(横浜市助成金)は、同年六月ころに港北区から旧町会に五二万六四〇〇円が配付され、旧町会はこれを昭和五三年度の一般会計の歳入(その他の収入)に繰り入れた。

3  控訴人らは、旧町会は消滅して控訴人ら及び被控訴人の四町会に分裂し、旧町会所有の財産は分裂後の町会各四分の一ずつの持分による共有となった旨主張するので判断する。

右事実によれば、旧町会は権力能力のない社団とみることができ、その成立ないし消滅及び財産関係の処理に関しては、会則及び民法の社団法人に関する諸規定に従うべきであるから、新町内会の会員が旧町内会を脱退し、新町内会を設立したときは、旧町内会に属する財産につき新町内会がその分与を受けるいわれはない。すなわち、町内会は、地域住民によって構成される任意的団体であり、同一地域内においても同種の団体を結成することは妨げられず、会員の加入、脱退は自由であり、会員相互の団結の必要性に乏しく、その経済的運営は原則として少額の会費で賄われ、年度ごとに費消されるのが一般であることは公知である。控訴人ら、被控訴人に対して区から補助金が配付されているが、右補助金は市又は区に対して請求しうるものではない上、区は区内の各町内会を平等に取り扱っている。ところで、団体の分裂とは、主として労働組合の分裂に関して用いられることのある法概念であるが、その主たる有用性は、法主体としての形式的な同一性といった財産帰属の一般的基準に対する例外をこの場合に特に認めて労働組合の活動にとって不可欠な組合財産の分割取得を理由づける点にあるところ、町内会においては、町内会運営ないし活動のため不可欠とみられる財産は、むしろないのが通常であるから(本件においても同様である。防犯灯自体はそれ程高額なものではないし、その所有権の帰属、使用関係について当事者双方とも主張しない。)、これについて団体の分裂という法概念を用いる余地は一般的にないものと解すべきである。

したがって、その余について判断するまでもなく、控訴人らの前記請求は理由がない。

二  次に、控訴人らの当審における新請求について検討する。

1  《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、総会の決議に基づき、地域社会における生活環境を向上させるため防犯等をはかることを目的とし、そのため街路灯の維持管理を事業内容の一つとしており、従来旧町会を組織する地域に二一一基の防犯灯(街路灯)を設置しその維持管理をするとともに、東京電力との間に電気供給契約を締結しその電気料金を支払ってきた(以上の事実は当事者間に争いがない。)が、同一地域に控訴人らが設立されたことにより、前示のとおり昭和五三年以降会費収入が激減し、また毎年六月に港北区より各町内会に配付される地域振興協力費についてもその配分をめぐる意見の対立から昭和五四年、五五年分を受領していなかったため、昭和五六年四月以降の右電気料金の支払の目処が立たなくなった。そのため、被控訴人は、同月九日東京電力に対し、同月一六日以降支払の目処がつくまで、右防犯灯への電気供給を一時停止するよう申し入れた。これに対し、控訴人らもそれぞれ防犯等生活環境の充実をはかることを事業目的としており、右防犯灯が消灯されることは困るため、それぞれの総会の決議に基づき、同日とりあえず東京電力に対し控訴人らにおいて料金は全額支払うので右防犯灯への電気の供給を継続するよう申し出てその了解を得、同日以降も引き続き電気の供給を受け、昭和五七年一二月八日東京電力に対し、昭和五六年四月一六日から昭和五七年一一月一五日までの右防犯灯の電気料金九五万三八八二円(内訳昭和五六年四月一六日から昭和五七年三月末日まで五六万九四一五円、同年四月一日から同年一一月一五日まで三八万四四六七円)を支払い、また昭和五八年三月末日までに昭和五七年一一月一六日から同一二月一日までの右防犯灯の電気料金二万二六七九円を支払った。

(二)  控訴人らは、同年一二月二日東京電力との間に、右防犯灯二一一基について正式に控訴人ら名義で電気供給契約を締結し、昭和五八年三月末日までに昭和五七年一二月二日から昭和五八年三月分までの右防犯灯の電気料金一五万五五一五円を支払い、昭和五九年三月末日までに昭和五八年四月分から昭和五九年三月分までの右防犯灯(但し、昭和五九年一月より一四基増)の電気料金五五万六八九一円を支払った。

(三)  控訴人らは、被控訴人が昭和五三年以降残留会員に直接関係のある防犯灯の修理しか行わなくなったので、右防犯灯全般の維持管理を控訴人らにおいて行い、修理業者の菊地電器等に対し修理ないし防犯灯新設代金として、昭和五五年度(昭和五五年四月一日から昭和五六年三月末日まで、以下同じ。)一一万一九二〇円、昭和五六年度一七万五六六〇円、昭和五七年度一九万〇五〇〇円、昭和五八年度八万四七四〇円を支払った。他方、被控訴人は、右昭和五五年四月一日から昭和五九年三月末日までの間に前示の修理等のため菊地電器等に代金三万五八一〇円(内訳昭和五六年度一万〇九一〇円、昭和五七年度二万四二〇〇円、昭和五八年度七〇〇円)を支払った。

(四)  ところで、港北区は、管内の各町内会に対し会員世帯数を算定基礎として、町内会の運営経費のなかで大きな比重を占める防犯灯事業並びに市政運営と密接な関係をもつ諸活動を助成する目的で、毎年六月地域振興協力費を配付しているが、篠原東区域では控訴人らと被控訴人の町内会が競合し、それぞれの所属世帯数についての主張が異なるので、控訴人らの会員であると署名捺印された書類や広報配布世帯数等から控訴人ら及び被控訴人の各所属世帯数を推定して、地域振興協力費を昭和五四年度控訴人ら三五万二八〇〇円(四〇〇円×八八二世帯)、被控訴人一七万六〇〇〇円(四〇〇円×四四〇世帯)、昭和五五年度控訴人ら四五万六三〇〇円(四五〇円×一〇一四世帯)、被控訴人一六万二四五〇円(四五〇円×三六一世帯)、昭和五六年度控訴人ら六六万七七〇〇円(五五〇円×一二一四世帯)、被控訴人七万九七五〇円(五五〇円×一四五世帯)、昭和五七年度控訴人ら六七万五九五〇円(五五〇円×一二二九世帯)、被控訴人七万六四五〇円(五五〇円×一三九世帯)、昭和五八年度控訴人ら七五万〇六〇〇円(六〇〇円×一二五一世帯)、被控訴人七万八〇〇〇円(六〇〇円×一三〇世帯)と決定した。

2  右事実によれば、控訴人ら、被控訴人と東京電力との間の電気供給契約は、いずれも総会の決議に基づいて締結され、防犯灯事業による便益は会員全員が享受するものであるから、控訴人ら、被控訴人の間においてはそれぞれ一定の分担割合による費用分担義務を負うというべきである(被控訴人が東京電力に対し電気供給の一時停止を申し入れたのち、控訴人らが東京電力との間で電気供給契約を締結した昭和五七年一二月二日までの時期においては、被控訴人は東京電力に対する関係では電気料金の支払義務を負わないことになるが、被控訴人は資金不足により防犯灯事業を一時停止し、これに伴い電気の供給の一時停止の申入をしたにすぎず、被控訴人の電気供給契約が解除されたと認めることはできないし、仮に解除されたとしても、右事由によれば、防犯灯設置の当初の決議が変更されたものとみられないから、防犯灯事業そのものは依然として被控訴人の行うべき事務であり、第三者がこれを行い、そのために出捐した費用のうち被控訴人の会員たる住民の負担に帰すべき部分については、被控訴人は自ら償還義務を負担すべき立場にあるものというべきである。)。そうすると、控訴人らあるいは被控訴人が自己の負担部分をこえた額の電気料金の支払をすることにより、相手方に対して、事務管理、不当利得関係が競合するということができる。

そこで、進んで控訴人らと被控訴人との右分担割合について考えてみると、前示のように防犯灯事業による便益は全会員が享受するものであり、主としてその財源に充てることが期待されている地域振興協力費は各町内会の世帯数に応じて配分されることからすると、その所属の世帯数によるのが相当であり、各年度における控訴人らと被控訴人に所属する各会員の正確な世帯数は本件全証拠によるも明らかとはいい難いから、前項(四)の世帯数によるのが相当である。以上を前提に、前項(一)ないし(三)の控訴人ら及び被控訴人の支払った費用について被控訴人の分担額を各年度ごとに算定すると、昭和五五年度は二万九三八四円(一一万一九二〇円×一三七五分の三六一)、昭和五六年度は八万〇六六〇円(七五万五九八五円×一三五九分の一四五)、昭和五七年度は七万八九八六円(七七万七三六一円×一三六八分の一三九)、昭和五八年度は六万〇四六五円(六四万二三三一円×一三八一分の一三〇)となり、被控訴人の分担額合計は二四万九四九五円となる。右金額より被控訴人の支払った三万五八一〇円を控除すると、被控訴人は控訴人らに対し、二一万三六八五円と、内金九万九八一八円(昭和五六年四月分から昭和五七年一一月一五日までの電気料金についての分担額に相当する、五六万九四一五円×一三五九分の一四五と三八万四四六七円×一三六八分の一三九との合計額)に対する訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日である昭和六三年九月二日から、内金一一万三八六七円に対する平成元年四月六日付控訴の趣旨の変更申立書送達の日の翌日である平成元年四月七日から、各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

三  よって、控訴人らの本件控訴をいずれも失当として棄却し、控訴人らの新請求を右の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 河合治夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例